できない夫は一年戦争を駆け抜けるようです 支援 中東方面某所における偶発的戦闘について  #3(支援SS レックス・インデックス再戦)

269名無しさん@狐板2015/04/12(日) 18:01:01 ID:yewQrxqo
\私のテキスト・カラテを見せてやる!!/



270名無しさん@狐板2015/04/12(日) 18:03:08 ID:yewQrxqo
 新城直衛中佐はガウ司令室から戦場全体を文字通り俯瞰している。
ここまでは――ここまではいい。彼の部下たちが立案した作戦の範疇だ。
「司令室より各隊へ、対象MSはマドラス方面に逃走中、観測情報は――」
 だが、それでもなお新城の内心には不安と疑念が満ちている。
「マゼラアタック部隊はどうなっている」
 オデッサから偵察部隊未帰還の警告は届いている。そしてできない夫達は既にかなり連邦軍の領域に近づいている。
 だが今は上手く行っている――今は――
「マゼラ中隊はファットアンクルに搭乗中です」

「再戦に間に合うか」

「補給を終えてからではないと戦闘不可能との事です。おそらくは急がせても30分は必要かと」
 新城は無言でうなずいた。マゼラアタックの長射程砲撃は強力だが物資の消耗が激しい。
MSの足に合わせるにはファットアンクルも持ち出さねばならない、手間がかかるものだ。
 だが、自分達は地獄の底に手を突っ込もうとしている。一歩間違えればたちまち破滅の底へむかってしまう。そう新城は己を戒めていた。
「観測班、警戒密にせよ、連邦の介入があるかもしれん」

「警戒密にします」
 レーダー手が素早く復唱する。
「ソンネン少佐より伝達、交戦距離に対象MSを確認、遅滞戦闘にはいる」

「MS小隊合流急げ」

「できない夫さん達――失礼、MS小隊間もなく合流します」
 新城は彼の部下に向け、祈るようにつぶやいた。
「――最後の詰めだ、誤らないでくれよ」


戦況報告書 中東方面某所における偶発的戦闘について #3


 デメジエール・ソンネンという男はジオン公国軍でも珍しい生粋の陸軍の男だ。
現在のジオンの象徴であるMSが兵器として認識される前から戦車に乗り――そして重力戦線においても“モビルタンク”ヒルドルブを駆り鹵獲MSを打ち倒して初陣を飾り、そして連邦軍試作MSとの死闘を幾度も繰り広げた一人である。
平たく言えばこの戦争における地上戦の専門家であり、同時に対MS戦闘のエキスパートだ。だが――
「ロックオンしているのになぜ動かねぇんだ?」
 その実戦経験の塊のような男が戸惑っていた。既に単独では勝ち目が無いと見切り、時間稼ぎに徹するつもりだったのだが、敵は動かない、動けば勝ち目が無いのは理解しているが、同時に今撃てば勝てるだろう、常識ならば。
 ソンネンは数秒ほど考え、面倒くさくなった。回線を開く。

「おいおい、本当にどうなってるんだ?俺が足止めする予定じゃなかったのかよ。
なぁ、大尉さんよ?」
                
『こちらも、その予定でしたが……、予定は未定で終わってしまったようですね』
 できない夫達のMS小隊が姿を現した。ソンネン少佐の任務はこの瞬間に完全に達成でした。
「まぁ未定でもなんでもいいさ。戦わずに勝てるのならそれが最良だ。 The Art Of Fighting Without Fighting ってか。
――で、どうするね、大尉さんよ? 俺はあくまでゲストだろ?」
 指揮権はソンネンが自分の意思で放棄している。できない夫の手腕に納得したからこそである。
『俺が行って鹵獲を試みようと思います』

「おいおいおい、今はおとなしくているけどよ、また暴れ始めたらどうするね?」 

『その時は少佐にズドンとやって頂ければ、と思います』
ソンネンは相手に聞こえぬようにため息をついた。
 物腰が柔らかい癖にここ一番の意志の強さは――自分の知る女傑達のそれとそっくりだ。
「いくら俺の腕が一流だからって密着した状態じゃあお前も無事じゃ済まんぜ?
下手を打つんじゃねえぞ?俺だってあのピエロや“剣虎”に恨まれたくねぇからな」

『そうならないよう祈っていて下さい。 では、いってきます』

「――ったく」
 ソンネンは懐からドロップを取り出し――噛み砕いた。
「どいつもこいつもどうしてこう無茶するかね!」



 数度深呼吸をし、オープン回線を開く。
「こちら、ジオン公国オデッサ方面軍第501大隊所属、できない夫大尉だ。
キミと話がしたい、いいかな?  回線は「1180」だ」
 30秒、1分、反応がない。応答も攻撃もない。負傷していたか――?否。
できない夫は“感覚”を研ぎ澄ませる。
 先ほどまでのプレッシャーはない、確かに“居る”が反応せずただそこに居るだけ……反応したくないという心理状態か?なら――

「分かった。 ならコチラに攻撃するの意思がない事を示そう」
 ハッチを開き、その身を外気にさらした。
「さて――」
できない夫は黒いMSに視線を向ける。いまだ無反応、攻撃する兆候もなし。
だが相手がその気になれば頭部のバルカンによって できない夫の葬儀は空の棺で行うことになるだろう。
だが、不思議と恐怖は感じない。今必要なのはMSでも言葉でもない、意志だ。彼はそう理解していたのだから。

むしろ慌てたのは彼の部下たちであるインカム越しに彼女達の静止の声ができない夫に届く。

「正気なの、隊長!?何考えているのよ!今直ぐコックピットに戻りなさい!
あの子たちの時とは状況が違うのよ!」
 そう、以前もできない夫は生身で戦場に降り立っている。だがあの時は趨勢はけっしており、あの娘達を助けるために降り立ったのだ。
 だが今回は違う、敵のMSは健在である、慢心をすれば死ぬ。カレンは必死に彼女の隊長を止めようとする。

「いや、これでいい。こうしなきゃ、多分あの娘は話も聞いてくれないだろうから」

 だがメアリもまた、シリアスな声で警告を発した。
「できない夫さん戻って下さい……。指にトリガーがかかりっぱなしです……」

 できない夫は一瞬、目を閉じた。これもまた彼女たちにとっては身勝手な振る舞いだろう。実際その通りだ。
 これはエゴだ。直感だけでこのような行いなど指揮官――いや、軍人として言語道断である、できない夫自身もそれを自覚していた。だが――
「ごめん、二人共。俺があの娘をあそこから出してみせる。
それまでは、何があっても動かないでくれ」

 エース部隊にあるまじきことに隊長の言葉に二人はしばし呆然とした。
「あの娘……?もしかしてその黒いのに乗っているのは……」

「女性……いえ、女の子?」


                                     1/3



271名無しさん@狐板2015/04/12(日) 18:05:29 ID:yewQrxqo
インデックスは――コックピットの中で一人、泣いていた。ベルファストの戦いから始まった旅路、すべての同伴者が逝ってしまった。文字通り孤立し、敗走する中で彼女はMSでも肉体でもなく、心が軋みを上げその歩みを遂に止めてしまった。
 軋む、軋み、『自分』が軋む。あの優しかったあの人も、守ろうとし続けてくれたあの人も、誰も彼もが逝ってしまったのだから。
だけど皆は何を残した?自分だ、自分の為に死んだ。ならば――折れてはいけない。でも、もう――

『そこから出てきなよ。そんな場所に居続けたら心が壊れて人間じゃあなくなってしまうよ』

 “暖かい光の人”がオープン回線で再び呼びかけた。だがその言葉がインデックスにもたらしたのは怒りであった。理性が、道理が押しとどめていた何かが堰を切ったように流れ出る、

「そうさせたのは誰? お爺ちゃんが死んだんだよ。天井の下敷きになった……。
地震とか、嵐とかじゃなくて戦争に殺されたんだよ」
 淡々とした冷たい声、レックスですら驚くだろう冷厳な怒りに満ちていた。
「私もレックスも武器を握った。でもお爺ちゃんは違ったんだよ……」

 徐々に、徐々に、臓躁的な声になっていく、あの時に感じた理不尽、あの優しかった老人を殺した理不尽への怒り、それこそがこの旅路の根源だったのだろう。

「お爺ちゃんは戦争なんてする人じゃなかった!その意味がわかっているの!?
ねえ! 教えて欲しいんだよ!お爺ちゃんは死んじゃったんだ!なのに銃を握った私が助けられている!」
 怒りと悲しみに満ちた慟哭。

「ねぇ………教えてよ」

「私とお爺ちゃんの違いは何? 命はみんな等しく同じ価値なのに 私とお爺ちゃんは何処で違っちゃったのかな?」

 ぶつけられた少女の思い、できない夫はひたすら真摯に答えようと言葉を紡ぐ。
「違いなんて何処にもないさ」
「君が理不尽に怒り、悲しむのはとても正しいことだし、その権利が君にはある」
 カレンも、メアリも、MSに乗り臨戦態勢をとっている。
最悪の結末を回避するためにも、彼女の心を救うためにも、ここで偽りを言うわけにはいかない。
「戦いの中で誰かを救う方法や命の尊さや価値なんかを伝えたり教えたりする方法があればいいんだけど
そんなもの、あるわけがない」
「俺みたいな自分の意思で武器をとって戦場に出る兵士はね。
この世界が、きっと明日はもっと良くなる世界が救われると思って戦って死ぬ
けど、それは俺達が大人だからそう考えて行動しているんだ」

「―――――」

「子供が、そんなことを考えて憎しみや怒りに囚われたりするのは悲しすぎる。
新しい時代を切り開く君たちが命を落として救われる世界なんてありはしない」
「人は神じゃない。君は理不尽に抗うために銃を抜いた。
けど、それでも君は生きなきゃダメだ。やらなくてはいけない事がある」

「やらなきゃいけないこと?」

「君を生かそうとしてくれた人の命に報いる為には、良く生きることだと僕は思う
Living Well is the Best Revenge――君が憎しみではなく、理不尽と戦うのならば
何においても、まず君がしなきゃならないことは、ソレじゃないかな」

「お爺ちゃん……レックス……私は……」
 自分は何故このMSに乗った?相手が憎いから?ただ壊したいから?違う、違う。
インデックスの思考の渦が収まるのをまたず、状況を動かす新たな一手が指された
 ちりちりとした敵意――

『こちら観測班。 確保対象、完全に沈黙せり、繰り返す、確保対象は完全に沈黙せり』
 
『――至急、攻撃に移られたし』
                                  
「――私はッッ!!」
 インデックスは、ガンダムはビームライフルを構えた!
いまだできない夫はハッチの傍にたたずんでいる。
「――――――ッ!! 」

「隊長!?」

「できない夫さん!!」
 二人が悲鳴じみた声を上げた。メアリですら反応できぬ早撃ち!


「できない夫さん!!生きていますよね! 死んでないですよね?!
死んでいるのでしたら私もそばに行きますよ!! 」

「いやいやいや、大丈夫、生きているよ。俺を狙っていないと分かっていたけどやっぱりちょっと怖かったけどね」
 できない夫は既にドムに乗り込んでいた。
 慌てふめくトップエースに苦笑しながらもできない夫は支援システムを素早く操作する。
「それよりも、だ。 問題はあの娘がビームを撃った先だ」
 できない夫はエンドゲームスタディの指し手へと意識を切り替えた。

『こ、高熱源反応確認!』

「この距離で探知できないとは……観測班! 何をやっていた!!」

「無茶言わんで下さいよ!このあたりじゃもう粒子濃度が高すぎます!
――反応でました!この形状と波形はMS!数は……38機!?」

『おいおい、これは最悪、退くことも考えた方がいいんじゃねぇか?
死んだら終わりだぜ』

『ちょっ次元さん近い!近いです!ちょっとやめないか!』
 司令室の混乱が梓伍長の回線から漏れ聞こえる。

「――38機だって!?」
 モノアイ越しに見るとMS部隊は隊列を組み、盾をそろえて間から銃口を向けている。
さながら古代ローマのファクランスの如き光景だ。
 できない夫は即座に大隊本部との直通回線を開く。
「MS部隊の目的はやはり?」
 新城中佐の応答が即座に返ってくる。
『偵察機の未帰還の報告があがっている、軍事境界線付近に展開していたのだろう。
十中八九あのMSの確保だ』

「……最前線付近とはいえ、まだこちらは我々の領域のはずですが」

『あの規模の新鋭部隊を浸透させているわけだ。追撃に出ていた部隊を生かして返すつもりはないだろう
判断は任せる、退くのならば僕が責任を取る。周辺警戒を怠った責はこちらにある』
 ――どうする。ここで連邦軍の手に渡ればどうなるか――

「ふん……やってやろうじゃない!たかがそれだけの数、私達とドムなら粉砕できるわよ!」
 機体が損傷し、戦闘面では一番危険なカレンは意気軒昂である、士気の面で不安はない。

 できない夫は無言で消耗の度合いを確かめる――機体へのダメージはできない夫もメアリも共に軽微、カレン機もまだ戦える。
だが問題は弾薬消耗だ。あれだけの数を相手にするのならば――否、それ以上に相手の実力は未知数。
 ここで賭けにでるべきか――?

                                    2/3



272名無しさん@狐板2015/04/12(日) 18:10:52 ID:yewQrxqo
 先程の一撃、インデックスのそれは岸壁を抉っただけである。
だが連邦の部隊の出鼻を潰すという点では覿面であった。それも当然だろう。
何がどうなろうと彼らは友軍の筈だったのだから――

「僚機の実験機もいない、トレーも応答なし、そしてスカート付きが複数」
 ホバートラックにて陣頭指揮を執っていた大隊長は舌打ちをした。
 僚機はなし、ビッグトレーも応答なし、そしてこちらを牽制するようにビームライフルを放った確保対象MS。
『大隊長殿、どうなっているんですか!アイツ、こっちに向かって!』

「敵中で孤立していたんだ、錯乱している可能性もある。
対処するのは先に敵を排除してからだ」

『孤立……ではあのレックス大尉も!?』
 
『ビンゴかよクソッ!奴らエース部隊か!』
 部下たちの狼狽ぶりに大隊長は眉を潜めた。 エースは戦闘力だけではなくその存在だけで相手を浮足立たせてしまう。
かの赤い彗星などがあらわれたとしたら下手な新兵であれば失禁、下手すれば心臓発作すらあり得る。
 ならばどうするか――
「ホバートラック前に」

「危険ですが」
 運転手が顔をこわばらせた。ホバートラックの装甲はけして厚くない。
 だが大隊長は決断的な口調で繰り返した。
「ホバートラック前に!」

 ホバートラックがMS隊の前にでた。
「大隊総員傾注!」
 銃座から文字通り車上の人となった大隊長が叫んだ。
「与えられた任務は果たす」
彼は眼前の敵を見据え、手を振り上げ――。
「確保しろ』
 振り下ろした。
『合戦開始!小隊横列展開せよ!』

『合戦開始!』
『隊列重点!』
わらわらと連邦軍はルナチタニウム製シールドを構え前に出る。
再び後方へと戻りながら車中の人となった大隊長は叫んだ。
『奴らを追い払え――各機、撃ち方始め!弾幕を張れ!連中に近寄られたら死ぬぞ!』
 ジムたちはレッドコートの如く隊形を崩さず前進する。
「撃て!」「撃て!」「撃て!」「撃て!」
 BRATATATATATATATATATATATATATATA!!
 無数の銃口から放たれる圧倒的弾幕!
数発程度ならドムの装甲ならばそれほど問題はないだろう、だが幾度も銃弾を浴びせられ続ければいかな重MSとて限界というものがある。
「――各機散開ッ!」
 各宇宙ならば三次元的機動で面制圧に対抗できるだろうが
ドムのホバー機動は陸戦の二次元的機動に特化した故だ。
空中戦はけして得意ではない。

「やはりやるしかないか――」
 できない夫は決断した。作戦目標はあのMSの確保。成し遂げられぬとなると実際、膨大の物資と時間を継ぎこんだこの作戦は無駄となる。
自身だけではなく、最悪、新城中佐にまで累が及ぶだろう。
「ハクさん、撤退支援の用意を。まず一当てしてみますが、最悪、撤退します」

『了解、無茶しすぎないでね』

 一方、主戦力となるカレンとメアリは攻め筋をつかもうとしていた。
「接近戦にさえ持ち込めれば!」
「私が道を開く!ドムのバズーカならあの盾だって抜ける筈!」
 
 厄介なのはあのシールドと弾幕だ。あのシールドを貫くには火力が必要だ。
「ソンネン少佐!」
 だがソンネンは動かない。
『待て、お前らも下がった方がいいぞ――騎兵隊の御到着だ』

「は?」
 できない夫が訝しむまもなく今度は複数のバズーカ弾がジムの戦列の眼前に炸裂した

『撃ち方やめぇ!後退し、各中隊ごとに集結!警戒せよ!』
 連邦の部隊は油断なく集結し、警戒態勢にはいった。
 十数機のMSを引き連れ、一際華美な装飾が施されたドムが前にでる。
「ふむ……。境界線付近できな臭い動きがあると報告があったからもしや、と思い駆けつければ随分と舐めた真似をしてくれる……」
 オデッサ方面軍司令官、ネロ大佐だ。その胸は豊満であった。
「いやはや、管制室の連中もいい仕事してくれたもんよ。
――で、どうするよ、俺たちと遊ぶか?これでも親衛隊名乗ってるんだぜ?」
 赤塗りの親衛隊専用ドムが前に出る。オデッサ方面軍司令官とその親衛隊。
純粋な戦闘力ならば“エンドゲームスタディ”をも上回るだろう。

「こっちも片付けてきたわよー。言ったでしょう?一ラウンドじゃない、一分だってね」
 そして――二機目のガウとMS小隊があらたに出現する。風見隊だ。
『――というわけだ連邦兵士諸君。その数で我ら地球侵攻軍直属の精鋭部隊とオデッサの精鋭及び増援部隊とここで事を構えるというのなら相手になるが、如何に?』
 オープン回線の映像にガルマ・ザビが映し出された。

「大隊長殿!?」
 クルーだけではない、指揮官の彼とて想定外中の想定外の事態に混乱寸前であった。

「少し待て――チッ!これだからミノフスキー粒子ってやつは!」
 マドラス基地との回線が途絶している、大隊長は舌打ちした。
やはり彼自身が判断するしかない。
「おい、ここまで記録はとったな!?」

「はい、戦闘、通信記録共に重点しております!」
 兵站幕僚が慌てて答えた。
「――退くぞ、ここで全面戦争の引き金をひくわけにもいかん、俺たちの任務はあのMSの確保であって敵部隊との交戦じゃない。
既に作戦遂行のための環境がもう破綻したと判断すべきだ」

 そう、所詮は一個大隊、ここで軍司令官クラスが出てくるという事は相応の戦力を動かせるという事だ。エース部隊との戦いですら危ういというのに下手に部隊の集結をさせるのは危険に過ぎる。
「まだだ、俺達は準備が整っていない。今は――まだ」


 油断なく敵は退いていく、追撃をかけるにはまだ無理があるだろう、油断のならぬ相手だ。
「引いていく……。この場は、凌いだとみていいのかな?」

「だなー。けど次が大変だぜ、お前ら。
なにせ俺の『お使い』お前らやんなきゃだしよ」
 ヌケドはグリグリとモノアイを動かしながら言った。
「うーん……これはマジでヘタしたら死ぬぞ。
お前らに頼んだのは強行偵察だからな? 必要とあれば死ぬのもお仕事だから半端なお使いはできないぞ?」

「承知しています、それも覚悟の上で中佐にお願いしましたから……」
 都合のつかない物資の調達などヌケドの手配に頼ることは多々あった。
その代償として危険なマドラス基地の強行偵察を受けることとなっている。

「はいよ、分かった。
なら、戻ったらソッコーで任務に関する書類一式を渡しておくわ」

「助かります中佐。
それだけでも、生存確率がグンとあがりますから」

 懐刀二人の色気のない会話にネロが苦笑交じりに絡む。
「こらヌケド!まだ戦勝の祝もしておらぬのにもう次の仕事の話とは無粋なやつめ!
今は連邦の作戦の出鼻をくじき新型のMSの鹵獲にも成功した。
この喜びを共にわかちあうべきであろう」
 そして先程から黙りこくっている者にも、ある意味では天性のホスト役というべきか。

「どうしたガルマ?折角の勝利だというのになにを浮かない顔をしている?」

「ん? あ、あぁ……なんでもない」
 ガルマもまた重力戦線の総司令官ではなくV作戦対策の指揮官として思索を巡らせている。
 ――連邦のMSが部隊として編成され地上で活動を始めた、なら宇宙ではどうだろうか……
   こうして地上での動きが活発化したとうことはルナツーでの動きもあるかもしれない、もし連邦のV作戦が宇宙軍も絡んだものだったとしたら……?

 ガルマはひっそりと結論を下した。
 ――不安の種は残しておくべきではないな。ドズル兄さんを通じ、宇宙で私が一番信頼している人物。
シャアに動いてもらえるなら確実かつ頼もしい物はないだろう……
なに、シャアも単独でルナツー攻めなどという無謀なことはしない筈だ――

                                    3/3
#3終わり、エピローグへ続く



273名無しさん@狐板2015/04/12(日) 18:13:10 ID:yewQrxqo
 エピローグ

 オデッサ基地のさる華美な一室。それだけでも高級な茶葉だと分る香気が漂っている。
「――このように互いに知り合うところから、とあの娘と話し合いを初めてみたのですが……」
 キセイデ・できない夫大尉は決まり悪そうに対面の上官を見やった。
 マドラス基地強行偵察にかんする手配については既に終わり、インデックスについて雑談交じりに尋ねられたのだが――
「あの……。何か問題でもありましたか?」

 視線の先にいるネロ大佐は気難しげに顔をしかめていた。その胸は豊満である。
「いや、なに。ソナタは件の娘をどう扱うつもりでいるのか……。
そのことについて考えを巡らせていた」

「連邦のMSを打倒しその小娘を引き釣り出して保護したのはソナタの裁量の内よ。
面倒事を背負い込むなり施設に預けるなり、捕虜として拘束するなり好きにするがいい
だが――」
 ネロはわずかに目を細めた
「分っていようが、相手はあのMSのパイロットだった娘だ。
ソナタの返答次第で今後の人生に大きな影響がでるぞ?
どういう扱いをするのか、聞かせてくれ」

「他の娘たちと同じく彼女たちが成人して独り立ちするまで 俺が面倒を見ます」

「他の娘たちと同じく、か――
アレは連邦の機密に触れて動かしている、あの娘の未来は重いぞ?」
 治安判事めいた詰問にもできない夫はよどみなく答えた。

「あの娘と話し合った上で決めたことです
彼女の未来が重いというのなら その荷物を一緒に背負って走ってやりますよ
それであの娘が笑顔でいられるなら、後悔はしません」

 迷いのないできない夫の言葉にネロはため息をついた。
「やれやれ……。荷物過多な船がまた自ら沈みかけるか」

「――ビアンカ・ネーヴェ」

「貴様の上官、新城直衛の秘書官である奴の本当の名前は
イリヤスフィール・フォン・アインツベルこの地球圏における名門貴族の令嬢だな?」

「はい、仰るとおりです。元は例の御老人の妄執から逃す為に「白雪姫」と名乗ってもらっていました。
まだ何があるか分かりませんので他言無用ということでお願いしたいのですが……」

「そう、か――すまないな、できない夫」
 普段の陽性のそれとは異なる静かなつぶやきだった。
「フェイスレスの時も、此度の事も
余はソナタらの荷物を預かるだけの拠り所になれない……。
それが悔しいよ」

 できない夫は何を言っているのかと微笑を浮かべて答えた。
「何をおっしゃいます。大佐がいらっしゃらなかったらあの娘達はオデッサで安心して暮らせませんでしたよ」

「利を求めるだけの方であれば俺の都合など気にもせず好きにされていたでしょう。
これだけ部下のことを思って下さる上官は他に居ません」
 一瞬、ピエロが脳裏をよぎったが気のせいである。

「――うか。いかんな、上官が部下にこのような顔を晒すなどここ連日は休む暇が無かったからな。
少々弱気なことを言った――ソナタとは何もない時にゆるりと語り合いたいな……」
 二人は静謐な空気の中で微笑を交わした。
「はい、大佐」



「――この報告に間違いはない、そういうことでいいかね、少佐?」
「はい、大佐殿。間違いはありません」
 先の作戦の指揮を執っていた大隊長は蒼褪めた顔のまま首肯した。

「――成程、君の判断は妥当だった。私は支持しよう。
だが――閣下たちを説得するのは難しい」

「君は作戦目標であったガンダムの回収に失敗し、逆に我々がMS部隊の運用を本格化し始めたことまで知られてしまった」
 振り返り、彼の背後に控えていた将校を見やる。
「――はっ」

「残念だが、君の責を問わぬわけにはいかん。MS大隊からは外れてもらう、
     ・・・
君には――強襲型を任せることになるだろう、分るね?」

「――ッ」
 大隊長は顔を歪めた。つまり懲罰部隊の指揮を執れという事だ。
「MS部隊の拡充が進めば君には戻ってきてもらうように努力しよう。
――行きたまえ」
 元MS大隊長が退席するとライヤー大佐はしばしMS大隊の記録データを見た。
「やはり――エース部隊が相手となると厳しいものがあるな」
 戦闘記録データを眺め、紅茶を飲む。
「やはり――ジオンの様に戦う事はできるものではない、か。
であるならば集団戦、それに他兵科の拡充、それに航空戦力の対地支援も――」
 イーサン・ライヤー大佐は無能ではない、むしろ優秀な指揮官であり、能吏である。
「ゴップ閣下にアポイントメントをとるか――閣下には宇宙だけを見られていても困るというものだ」
 故に彼はすでに先程の指揮官の人事書類を既決トレーへと放り、二度と見やる事はなかった。
 もはや些事である、地球連邦陸軍大佐にしてアジア方面軍参謀副長たるものは大事に取り掛からねばならない。
「拡充と精鋭部隊の育成さえ完了すれば――もう手が届く。私の手で欧州の奪還に成功し――」
 抱える者、己の歩みの為に捨てる者、いかな思惑があろうと時間は淡々と針を進めてゆく。
 マドラス基地の激戦まであと数日――
           【戦況報告書 中東方面某所における偶発的戦闘について】終わり



274名無しさん@狐板2015/04/12(日) 18:14:26 ID:yewQrxqo
以上です。
ブラウザの調子がマジでブルシットでしたがこれでひとまず終了です。
だらだらとした上に好き勝手しまくったSSでしたが御笑覧いただきありがとうございました。


275名無しさん@狐板2015/04/12(日) 18:15:49 ID:yewQrxqo
(色々と誤字とか描写間違いとかケジメしたらまた場をお借りするかもしれません)


276太眉 ◆BSVL8zPtdg2015/04/12(日) 18:46:45 ID:lCxRFoCY
おぉ……やはり素晴らしい
SSならではの心理描写ワザマエです!
これだからSSは素晴らしい(ヘルシング並感


277太眉 ◆BSVL8zPtdg2015/04/12(日) 19:11:45 ID:lCxRFoCY
うーむ……SSか……。
私も……いや……うん考えてみようかなぁ


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